湊かなえ著「Nのために」 感想

今回は湊かなえさんの「Nのために」を読んだ感想をつらつらと書きたいと思います。あまり、具体的なネタバレをしないようには書いています。


TBSで「Nのために」のドラマの再放送があっていたのを見て、原作本を読んでみたいと思い、この原作本を手に取りました。ちなみに、ドラマは再放送が好きです。一気見できるし。

Nのために

超高層マンションの一室で、住人夫婦の変死体が発見された。現場に居合わせた20代の4人の男女が織りなす純愛ミステリー。


若い青臭い一方通行からの視点から見た景色の中で未熟な解決法に突っ走った結果、といったところでしょうか。でもそれぞれに必死で、それぞれに真っ直ぐで、誰かのためで、自分のためで、そんな身につまされるお話でした。ドラマ版の方が分かりやすくなっていますが、私はドラマも小説もどちらも好きです。

成瀬慎司

狭くてもいいから地に根差した場所が欲しい。「シャルティエ・広田」のような「さざなみ」のような大切な人と向かい合って、幸せな時間を共有できる場所。そこにいてほしいと願ったことのある人は、ぼろぼろのアパートの一室だけど、手を伸ばせば届くところにいる。それってものすごく幸せなことなんじゃないか。

彼を象徴するのはこの部分じゃないでしょうか。この小説の中では結構一般的というか普通の青年。最終的に小さな店を持てたということは、場所が本当に手に入ったということでしょうか。そうであればいいと思います。

安藤望

犯罪を犯してもそれをかばおうとは思わない。一緒に(警察に)行く。そしてできる限りのことをしてやる

ある意味幸せな人だったんですね。自分の家族や恋人がそんなことをすることはないと簡単に言ってのける。そこにいる二人は同じことをきっと言えません。しかしそんなことに気づきもしない。幸せな人です。そんな人から発生した暗い行動。それが引き起こした悲劇。けれどその結果に対して、最初の言葉通りできる限りのことをした。どんなに真っ直ぐに明るい場所を歩いてきた人でも、暗い声に耳を貸せば、ダークサイドの影を踏んでしまう。でも明るい場所を歩いてきただけあって、その後の行動も明るい場所を歩いてきた人の所業です。そしてそのまま明るい場所を歩いていく。ちょっとした影だけを残して。

西崎真人

かわいそうな子。そう言われるごとに、過去の人生から愛が消えていく。母親から受けた愛という名の行為。美しい文章で紙に綴り、愛だと証明してみせる。

受けた行為が愛じゃないことぐらい彼だって分かっている。でもそれが愛じゃないとしたら、自分の過去は一体何だったのか。苦しい自分を文学に昇華することでなんとか受け入れ、生きてきた。それが彼なんだと私は思います。でもその彼が、殺人の動機が愛ではいけないと言えたことで過去の人生から少しは解放されていることを願うばかりです。

彼が書いた小説に興味があります。貝の話とかちゃんと読んでみたいですね。

杉下希美

豪華客船でアラブの石油王と出会うには英語くらいできなきゃダメでしょ。これくらいの野望を持ってなきゃ、つまんない現実に飲み込まれちゃうでしょ。

この言葉に全てが込められているように感じました。途方もない子供の夢としか言えない野望です。でもそれくらいの野望を持っていないとやっていられない。つらい現実に飲み込まれないように必死で生きてる。ただ必死でもがいて。希美はそういう人だと思いました。安藤が当初意味が分からないと言った西崎の「灼熱バード」を愛の話だと理解できたのは、つらい経験を積み重ねてきた彼女だったからです。分かりたくもないのに分かってしまう。そんなところじゃないでしょうか。

そういえば、そういえば。

前兆というのは、ことが起こる前にそれを知らせる小さな出来事のことだけど、それが前兆だったと思い当たるのは、ことが起こってからだ。

本当にその通りで、それから起こったことも理不尽極まりないとしか言いようがない。つくづく子供には人権などないのだと思わせられる。父親が自分の幸せのために生きる。それはいいでしょう。ですが、今の生活は自分の決断から来たもので、その責任はどこにいってしまうのか。

誰かに愛されたいなんて思わない。愛されるための努力なんて絶対にしない。それがいかに愚かな行為であるかということは痛いほど身に染みている。

子供にこうまで思わせた責任はどうなるのか。地獄の始まりの日。そう言われた日の彼女の心を思うとやり切れない。土下座を求める女も。冷蔵庫いっぱいに食事を作りだめしてしまうことも。狂った母親も。壊れそうになりながら必死に生きるしかなかった彼女を思うと何も言えなくなる。言うことができない「助けて」をシャーペンのノックで表すしかない。まだ高校生なのに、誰も助けてくれず、逃げ場もない。子供の幸せの基本はどんな親に当たるかで決まってしまう。

彼女は幸せになれたのだろうかと思ってしまう。そうとはあまり思えなくて悲しい。

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